きさらぎ駅——“存在しない駅”に降りた女性の記録
2004年、ある掲示板に投稿された「知らない駅に着いてしまった」という実況。日本のネット怪談の原点を、当時の流れに沿ってたどる。
深夜の掲示板に、ひとつの書き込みが落ちた。「いつも乗っている電車なのに、20分以上どの駅にも停まらない」。やがて電車が滑り込んだのは、誰も聞いたことのない駅だった——きさらぎ駅。
始まりは、ありふれた帰り道
投稿主は、いつもの路線でうとうとしていただけだった。気づけば車内に乗客はおらず、窓の外には見覚えのない闇が流れている。不安になって書き込みを始めた彼女に、掲示板の住人たちはリアルタイムで助言を送り続けた。降りるべきか、乗り続けるべきか——やり取りはそのまま「実況」として記録されていく。
語り継がれる“異界駅”の原点
無人のホーム、片足のない老人、線路沿いに延びる暗いトンネル。投稿は不穏な描写を重ねながら、ある時点でぷつりと途絶える。真偽は今も誰にも分からない。確かなのは、この一夜の書き込みが「異界駅」という新しい怪談の型を生み、二十年を経た今も語り直され続けているという事実だ。
なぜ人は、たった数行の実況にこれほど惹きつけられるのか。そこには、見慣れた日常がほんの少しずれただけで“どこでもない場所”に変わってしまう——という、誰もが心の奥で知っている不安が横たわっている。