イエティは熊か、未知の霊長類か——ヒマラヤが隠し続ける雪男の正体
標高5000メートルを超える雪稜に残された巨大な足跡。イエティ目撃証言の歴史と、科学が出した一つの答えを追う。
雪の斜面に残された「あり得ない」足跡
1951年、エベレスト遠征に向かった登山家エリック・シプトンが、標高約6000メートル付近の雪面で巨大な足跡を発見した。長さは約33センチ、人間の足型に似ているが、比較のためにピッケルを並べた写真には、明らかに常識を超えたサイズの印影が写っていた。この写真は世界中の新聞に掲載され、「イエティ」という存在が一気に国際的な話題となった。
ヒマラヤ山麓のシェルパたちにとって、イエティは昔から「ドゥ・テ」や「ミ・テ」と呼ばれる存在だった。熊でも猿でもなく、二足歩行する巨大な影——という語り継ぎは、少なくとも数百年の歴史を持つとされる。目撃談の多くは雪嵐の直前や視界の悪い夜間に集中しており、「恐怖が生み出した幻影」と片付けるには、証言の数が多すぎる。
DNAが示した、一つの答えと残された問い
2017年、英国オックスフォード大学などの研究チームが、ヒマラヤ各地で「イエティのもの」として保管されていた毛や骨などのサンプルをDNA解析した。結果は、そのほぼすべてが熊——ヒグマやアジアクロクマ、あるいはその交雑種——のものと一致した。科学的な観点では、目撃されてきた「雪男」の大半は熊であった可能性が高い、というのが現時点での主流見解だ。
しかし、この結論がすべてを説明するわけではない。高山に生息する熊が二足歩行する姿は、遠目には人型に見えることがある。だが、シェルパたちは幼い頃から熊と共存して育つ民族でもある。彼らが熊を「別の生き物」と語り続けるのはなぜか。また、解析されたサンプルがすべて「本物」だったかどうかも、確認のしようがない。
未解明のまま山は沈黙する
イエティ探索の歴史は、19世紀の英国人登山家たちの記録にまでさかのぼる。以来、各国の探検隊が何度も現地調査を行ってきたが、決定的な実体——生体や完全な骨格——は一度も発見されていない。DNA解析という現代の科学ツールをもってしても、「すべてが熊だった」と断言できるほどのサンプル数は集まっていない。
ヒマラヤは今なお、人間が完全には踏み込めない領域を抱えている。もし未知の大型霊長類がその奥地に潜んでいたとしても、発見されないまま数十年が経過しても不思議ではない環境がそこにはある。イエティは「神話が生んだ幻」なのか、それとも科学がまだたどり着いていない「事実の残影」なのか——雪山はその答えを、静かに隠し続けている。